コラム
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今すぐ無料相談「手を振る=お客様」という思い込みが死亡事故を招いた。深夜の道路では想定外が起きる。危険予知の重要性を伝える実例。

中央分離帯のある片側5車線道路。
お客様をお送りした帰り道、
第二車線を走行していた空車タクシーの乗務員は、
かなり前方の左側車線で、こちらへ向かって大きく両手を振る男性の姿を見つけました。
この時間帯、繁華街のピークは過ぎています。
空車のタクシーを見つけると、道路際まで出て手を挙げる利用者も少なくありません。
乗務員はそう判断しました。
お送りの帰路に次のお客様を乗せられる。
乗務員にとって、それはありがたい状況です。
ウインカーを出し、左へ車線変更。
手を振る男性までは、まだ距離があります。
前方の路上に、ベージュ色の塊が見えました。
道路や路肩には、ときに走行中の車両から落ちたブルーシートや毛布、
ダンボール箱などが落ちていることがあります。
乗務員も、そうした落下物をこれまで何度も見ていました。
急ハンドルは危険だし、避けきれないと判断、そのまま通過しようとしました。
実際には、その直前に別の事故が起きていました。
道路を横断していた高齢女性が、
第二車線で軽トラックにはねられ、第一車線側へ飛ばされ倒れていたのです。
軽トラックの運転者は、後続車へ危険を知らせようと、必死に両手を振っていました。
しかし空車タクシーの乗務員には、それがお客様を呼ぶ利用者に見えてしまった。
その思い込みが、判断を狂わせました。
そして路上に倒れていたベージュ色のカーディガンを着た高齢女性を、落下物と誤認してしまったのです。
グループ会社で起きた事故ではありましたが、運行管理者として私が初めて向き合った、
人の人生を終わらせてしまう事故。
ドライバーの人生までも変えてしまう事故。
それが、死亡事故です。
捜査の結果、第一当事者は軽トラックの運転者とされました。
けれど、関わった人々の人生から事故が消えることはありません。
私は、そのタクシー乗務員の人柄を知っていました。
穏やかで、真面目で、誠実な人物でした。
もし彼の中に、
「深夜の道路中央に人が倒れていることがある」
「手を振る人は、危険を知らせている場合もある」
そんな危険予知の引き出しが一つでもあったなら。
それでも私は、今も考えます。
運行管理者として、もっと現実的な危険予知教育ができていたなら。
この事故を防げた可能性が、少しでもあったのではないかと。
ドライブレコーダーは、ただ事故を記録する機械ではありません。
正しい行動も、誤った判断も、ありのままに残す “証言者” 。
事故を正しく理解し、危険を学び、再発を防ぐ。
ドライバーを守り、事故を減らす。
当時の私は、その価値を十分に活かしきれていませんでした。