コラム
交通安全に関する知識やノウハウを分かりやすく解説
交通安全の教育・研修をお考えですか?
今すぐ無料相談「傷がほとんどないから大丈夫」とその場で示談にしていませんか。交通事故は損傷の大小に関係なく警察への届け出が必要。届け出を怠るリスクと事故後に取るべき正しい対応
.png&w=3840&q=75)
事故の相手へのお見舞いの帰り道、車の中で部長が、ある乗務員の話をしてくれた。
午後2時。
ポートアイランドへ続く道路を走っていた。
春の日差しは暖かく、少し汗ばむくらいの陽気だった。
乗務を始めて2年。
仕事にも少し慣れ、自分なりの流れも掴めてきた頃だった。
その日は、医師の学会があるという情報を聞き、神戸大橋を渡ってホテルでお客様を待とうと考えていた。
昼食後、仕事を再開してしばらく経った頃だった。
少し眠い——。
瞬きが増えているのを感じていた。
神戸大橋を下り、最初の交差点へ差しかかる。
速度は10km/h以下まで落ちていた。
前の車に続いて停止しようとした、その瞬間——
「ゴン......」
という音とともに、前のワンボックス車に追突していた。
眠気が一気に吹き飛んだ。
交差点を越えた先に車を停める。
相手の運転手も車を降り、社用車らしい車の後部を確認していた。
私も慌てて車を降りた。
「すみません。怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫です」
「警察を呼びますね」
すると相手は、
「いや、傷もほとんど分からないくらいだし......。いいよ。気をつけてね」
そう言った。
正直、ホッとした。
実はその数日前にも、狭い道でバンパーを擦る事故を起こしたばかりだったからだ。
だが、それでも私は言った。
「それじゃ、やっぱりまずいです」
すると相手は、
「約束があって急いでいるので、連絡先だけもらえるかな」
そう言った。
私はタクシーカードに携帯番号を書いて渡した。
相手はそのまま走り去っていった。
「いい人でよかった」
それが正直な気持ちだった。
事故を続ければ、会社からの信用を失う。
そんなことばかり考えていた。
その日は、一日中すべての運転に緊張感があった。
4日後——。
事故のことも忘れかけていた頃、会社から電話が入った。
部長だった。
「○○さん、仕事終わりにごめんね。4日前、追突事故なんかしてないよね?」
頭の中で、あの日のことが一気によみがえった。
「......実は」
私は、事故のことをすべて話した。
「今日は遅いから、明日会社で話そう」
そう言われたが、その夜は一睡もできなかった。
翌日、会社へ行き、
私はただ、
「申し訳ありませんでした」
そう言うことしかできなかった。
相手の会社から、修理費の連絡が入っていた。
よく見なければ分からない程度の傷だった。
だが、見積もりはバンパー交換だった。
部長に促され、会議室へ入った。
部長は静かに話し始めた。
「○○さん。事故は、加害でも被害でも、必ず警察へ届けなければいけない」
「届けていれば、“事故があった”という事実はきちんと残る。
物損か人身かも、警察が状況を確認することが、大切なんだ。」
そして続けた。
「今回の事故、警察へ届けていたら何が違ったと思う?」
私は答えられなかった。
「相手の車は会社の車。こちらも会社の車だ。もし会社で傷を指摘された時、相手の運転手はどう説明すると思う?」
『急いでいたので、連絡先だけ交換しました』
そう説明するしかない。
「しかも、“傷はほとんど分からなかった”という話を、誰が証明してくれる?」
部長は、さらに静かに言った。
「もし相手が後から人身事故として届けていたらどうなっていた?」
その瞬間、背筋が冷たくなった。
事故を隠すつもりではなかった。
逃げるつもりもなかった。
ただ
”事故にならなければ助かる”
という考えこそが、自分の判断を鈍らせ、
過ちを犯すことになったんだとその時初めて実感した。
「やってしまった事故の対応を悔いるのではなく、少しの勇気をもって、
事故を起こしてしまった時にしっかり対応し、その後にすべき自分の運転を見つけよう。
加害事故でも被害事故でもそれは同じ。」
それが部長の言葉だった。
そして最後に部長は、こう言った。
「事故を届けないことで、得をすることなんて何ひとつない。加害でも被害でも、それは同じ」
あわせて読みたい:前編
About the author
